神職の年収は数万円!?神社本庁所属の神主たちが直面している生活の現実

社会

初詣や七五三で神社を訪れると、白衣に袴姿の神主さんが凛と立っている姿に、どこか「神聖で安定した職業」というイメージを抱く方も多いのではないでしょうか。かくいう私もライターになる以前、地方銀行員として働いていたころは「神社ってきっと儲かっているんだろうな」と漠然と思っていました。

しかし、取材を重ねるなかで、その現実はあまりにもかけ離れたものだと知ることになります。神職の年収は、場合によっては数万円どころかゼロ円。副業を掛け持ちしなければ家族を養うことすらできない神主さんが、日本中に大勢いるのです。

この記事では、神社本庁に所属する神職の収入実態と、彼らが日々向き合っている生活の現実を、データをもとに丁寧にひも解いていきます。「神社=儲かる」というイメージが覆される内容になっていますが、だからこそ知っておいてほしいと感じています。

神社は全国に8万社超──コンビニよりも多い”神様の家”

まず前提として、日本における神社の規模感を把握しておきましょう。

文化庁「宗教年鑑 令和5年版」によると、日本全国の神社の数は8万709社にのぼります。これは全国のコンビニエンスストアの数(約5万5,000店)を大きく上回る数字です。住宅街の片隅、田んぼの真ん中、山の頂上。日本のあらゆる場所に神社は存在しています。

そしてこれら約8万社の神社の大部分が、「神社本庁」という組織に包括されています。神社本庁は全国の神社を統括する宗教法人で、神職資格(階位)の認定や、各神社の宮司・禰宜の任命などに関わる組織です。神職として神社本庁系列の神社に勤めるためには、神社本庁が定める階位を取得する必要があります。

ここで重要なのが、約8万社に対して宮司は全国に約1万1,000人しかいないという事実です。単純計算で、宮司1人あたり7〜8社を担当していることになります。なかには50社以上の神社を一人で兼務している宮司も存在します。この宮司不足の深刻さが、神職の収入問題と深く絡み合っているのです。

参考: 神社本庁ってどんな役割?氏神さまの確認はどこでする?

神職の職位と収入の仕組みを知ろう

神社で働く神職には、一般企業の役職のような職位があります。

  • 宮司(ぐうじ):神社の責任者。一社に一名。いわば社長にあたる役職
  • 権宮司(ごんぐうじ):宮司の代理。一部の神社のみに置かれる
  • 禰宜(ねぎ):宮司を補佐しながら、権禰宜以下をまとめる役職
  • 権禰宜(ごんねぎ):一般的な神職員の立場

また、神職には資格としての「階位」があります。上から順に、浄階・明階・正階・権正階・直階の5段階で、大きな神社(別表神社)の宮司になるには「明階」以上が必要です。

給与は各神社から支払われます。注意したいのは、神社本庁から給与が出るわけではないという点です。神社本庁は各神社に対して「月給上限は60万円まで」という規定を設けていますが、経営状況は各神社に委ねられています。

神職の年収はどのくらい?データが示す厳しい現実

「平均年収300万円前後」という数字の意味

職業情報サイトの調査などを参照すると、神職の平均年収は300万円前後とされています。Indeed(2026年2月時点)の給与情報でも、神職の平均月給は約25万4,611円と報告されています。一般的な会社員の平均年収が430万円前後であることと比較すると、かなり低い水準です。

ただし、この「平均」には大規模な有名神社の高収入の神職も含まれているため、実態はさらに厳しいケースが多いとみるべきでしょう。

神社の規模で天と地の差がある

神職の年収は、奉職する神社の規模によって大きく異なります。

神社の規模神職の年収目安
大規模・有名観光神社500万円〜1,000万円以上
中規模神社300万円〜500万円
小規模・地方神社100万円〜300万円
過疎地・零細神社数万円〜100万円未満、または0円

有名観光地にある神社では年収500万円を超えることもあり、中には1,000万円以上という神職もいます。しかしこれはごく一部の話で、実際の多くの神職は年収300万円以下、さらには100万円を下回るケースも珍しくありません。

初任給は13万〜15万円が相場

神職養成の大学や養成所を卒業して神社に奉職する場合の初任給は、13万〜15万円程度が相場です。大規模な神社でも24万〜30万円程度、小規模な神社では10万円を下回ることもあります。

ある元神職の方の体験談によると、基本給22万円+ボーナス1か月+各種手当で年収は約300万円だったといいます。しかし月の休みはわずか6日、宿直(神社への泊まり込み)が月5日あったそうで、時給換算すると1,000円を切ってしまうとのことでした。

なぜ神職の年収はここまで低いのか?3つの構造的要因

①神社本庁の月給上限規定という制約

神社本庁の規定では、どれだけ収益のある神社であっても、神職への月給の上限は60万円(ボーナスを除く)と定められています。これは「神職はあくまで神様への奉仕であって、仕事ではない」という神道的な考え方に基づいています。

もちろん、月給60万円をもらっている神職はごく少数で、大多数の神職には無縁の規定です。しかし、どれほど神社が繁盛しても収入に天井がある仕組みは、神職のなり手確保という観点から課題を抱えています。

②神社の法人収入そのものが少ない

神社本庁が実施した調査(2015年)によると、年間の法人収入が300万円未満の神社は全体の約60%にのぼります。さらに、神社本庁が行ったアンケートの未回答者(神社活動に消極的な神社が多いとみられる)を含めて試算すると、実に8割近くの神社が年間収入300万円未満という推計もあります。

神社の主な収入源は以下のとおりです。

  • お賽銭(少額であることがほとんど)
  • 御祈祷料(七五三・厄払いなどで1件約5,000円〜)
  • 地鎮祭などの外祭(1件2万5,000円〜5万円程度)
  • お守り・お神札・御朱印などの授与品収入
  • 氏子会費・奉納金

地域の小さな神社では、1日に数人の参拝者があれば多いほうです。その方々からいただくお賽銭が1日分の収入のすべて、ということも珍しくありません。

③少子化・過疎化による氏子の減少という構造問題

特に地方の神社で深刻なのが、人口減少と過疎化の問題です。神社の重要な収入源である氏子(地域の氏神様を信仰する人々)の数が激減しており、神社の運営を支える人材も資金も失われ続けています。

過疎地神社の年間収入を見ると、最も多いのが「10万円以上100万円未満」(36.1%)、次いで「100万円以上300万円未満」(21.7%)、「10万円未満」(12.8%)と、過疎地神社の7割超が年間収入300万円未満という実態があります(中外日報の論考より)。

「神職としての年収0円」が存在する──兼業しないと生きていけない現実

ここが、この問題の核心部分です。神職としての給与が実質0円という状態で奉仕している方が、日本中に多数存在しています。

兼業神職というライフスタイル

神社だけでは生活できない場合、他の仕事をしながら神職を続ける「兼業神職」という生き方を選ぶ方が少なくありません。公務員は一般に副業禁止ですが、神職は「神への奉仕」とみなされるため、公務員でも兼業が認められるという特例があります。

実際に会社員・公務員として生活費を得ながら、週末や祭典の際だけ神職として奉仕するケースが多数存在します。また、神社の敷地内に幼稚園や保育園を設け、その収入で神社運営を支えているところもあります。

14社を兼務しても年収140万円という現実

元会社員から中小企業診断士に転身し、14社の神社を兼務している神職の方の話が、メディアで紹介されています。14もの神社から収入があるにもかかわらず、神職としての年収は140万円程度。これではとても生活できないため、コンサルタント業を続けているといいます(BIGLOBEあしたメディアより)。

これは極端な例ではなく、多くの兼業神職が同じような状況に置かれています。

宮司不足が招く負のスパイラル

  • 氏子の減少 → 神社の収入低下
  • 神社の収入低下 → 宮司の収入低下
  • 宮司の収入低下 → 宮司のなり手不足
  • 宮司のなり手不足 → 宮司の兼務化(1人で複数社担当)
  • 兼務化 → 神社維持管理の質の低下
  • 維持管理の低下 → さらなる収入の低下

このような負のスパイラルが、今まさに地方の神社で起きています。

神職の労働環境──年収に見合わない拘束時間

休みは月数日、宿直は当たり前

年収の低さに加えて、労働環境も厳しいのが実情です。元神職の体験談によると、月の休みは4〜6日程度、神社での宿直(泊まり込み)が月5日程度というケースも珍しくないといいます。

時給に換算すれば最低賃金を下回る水準になることもあります。「これでもマシなほう」という声があることも、現場の厳しさを物語っています。

年末年始・七五三・初詣シーズンは休みなし

参拝者が増える正月三が日や七五三のシーズンは、最も忙しい時期です。大晦日から元旦にかけての深夜対応、連日の参拝者対応など、一般の会社員が休暇を楽しんでいる時間帯にフル稼働しています。しかもこれらの繁忙期は休日出勤扱いとはならないケースも多いとされています。

福利厚生・社会保障はどうなっているのか

大規模神社と小規模神社では天と地の差

神職の福利厚生は、神社の規模によって大きく異なります。

項目中規模以上の神社小規模・零細神社
社会保険加入(健康保険・厚生年金)国保・国民年金
住居提供社宅(境内または近隣)ケースによる
ボーナス支給されることが多い支給なしの場合も
有給休暇整備されている不明確な場合が多い

宗教法人で神職が5人以上いる中規模以上の神社では、健康保険・厚生年金に加入しているケースが多いですが、小規模な神社では国民健康保険・国民年金のみという場合がほとんどです。

現物支給という慣習が今も残る

神社には金銭以外の収入として、奉納された米・野菜・お酒などの供物が、一定期間神前に供えられた後、神職に分配される慣習があります。現金収入の低さを補う一種の現物支給です。これが生活の助けになる一方で、現代社会の生活費を補うには限界があることは言うまでもありません。

それでも神社を守る人々──新たな取り組みと未来への可能性

厳しい現実がある一方で、工夫を重ねながら神社を守り続けている方々もいます。

SNS・デジタルを活用した取り組み

青森市の廣田神社の田川伊吹宮司(就任時23歳)は、荒廃していた神社をSNSのライブ配信などを活用して復活させた若き宮司として注目されています。地域との絆を丁寧に紡ぎ直し、神社のファンを増やすという戦略で、経営を立て直した事例として全国的に紹介されています(東洋経済オンライン、ニューズウィーク日本版より)。

初穂料・授与品の値上げという選択

ご祈祷料・お守りの価格を見直す神社も増えています。長年5,000円が相場だったご祈祷を1万円に、1,000円だったお守りを値上げするといった取り組みです。神社の文化・価値を伝えながら適切な対価を設定することが、神職の待遇改善にもつながるとの考え方です。

地域の拠点として生まれ変わる試み

神社が地域のコミュニティ拠点として機能することで、参拝者や支援者を増やす取り組みも広がっています。ふるさと納税の活用、神社の境内を活用したイベント開催、御朱印のデザインへの工夫など、それぞれの神社が知恵を絞っています。

詳しくは文化庁「宗教年鑑」神社本庁の公式サイトで、神社の基本情報・統計を確認することができます。

まとめ

神社本庁所属の神職たちが直面している生活の現実を整理します。

  • 神職の平均年収は300万円前後で、民間企業の平均を大きく下回る
  • 全国の神社の約6割が年間法人収入300万円未満という経営難
  • 月の給与が0円の神職も存在し、兼業しなければ生活できないケースが多数
  • 小規模・過疎地の神社では年収が数万円〜100万円未満という実態もある
  • 月数日の休み・宿直あり・年末年始はフル稼働という過酷な労働環境
  • 宮司不足が深刻化しており、1人で50社以上を兼務するケースも

「神社は儲かる」というイメージとは真逆の実態が、日本全国8万社のうちの多くで起きています。特に地方の小さな神社では、宮司が自ら農業や会社員の仕事をしながら神社を守り続けています。

日本人の暮らしに深く根ざした神社文化を次世代に伝えるために、私たちが参拝の際に少し立ち止まって考えてみること──たとえば、ご祈祷を受けてみる、お守りを授かる、日頃のお参りを習慣にする──そうした一つひとつの行動が、地域の神社を守る力になるかもしれません。

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